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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)28号 判決

控訴人(原告) 小牧定織物株式会社

被控訴人(被告) 西脇税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二、三審を通じて全部控訴人の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が昭和五〇年五月二四日付で控訴人の昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨。

(当事者の主張)

次に、補正、付加する他は、原判決事実適示と同一であるから、これを引用する。

一  補正

1  原判決三枚目裏八行目の「復合」と改める。

2  同五枚目表二行目の「仮りに」を「仮に」と改める。

3  同五枚目裏末行の「不知」を「知らない」と改める。

4  同六枚目裏一行目の「仮りに」を「仮に」と改める。

二  控訴人

1  訴外富士織物株式会社(加西市満久町四一一所在)は、昭和四六年七月、噴霧機を設置し、昭和四八年八月、冷房機を設置したが、同社の建物も木造の鋸型工場で、織機二六台が稼働しているところ、昭和四九年二月二八日に社税務署に提出した法人税の確定申告書に、冷房機について、租税特別措置法四五条の二を適用して申告をし、申告是認となつている(甲第四号証)。

2  控訴人も、噴霧機と冷房機をあわせて温湿度調整装置として確定申告をしているのであり、訴外富士織物株式会社と同様、織物の製造工程に直接有効に作用する機械として申告したものである。

温湿度調整の全機能を備えた一つの機械は存在せず(本坊美通証人調書一二丁)、繊維工業所においても、温湿度調整については、何種類かの機械の組合せを想定しているものである(同調書一三丁)。

三  被控訴人

1  訴外富士織物株式会社の場合は、確定申告書の記載上湿度調整機として申告されていたため、織物の製造工程に、直接、有効に作用する機械と解されたものと考えられる。本件冷房機は、除湿機能を有せず、単に温度を下げる効果しかないため、生産の目的に供する織物機械ではなく、労働環境の改善を目的とした冷房機、即ち建物付属設備として、更正処分がされたのである。

2  本件冷房機が建物付属設備に該当することについて

本件冷房機は、先に設備され控訴人みずから建物付属設備と申告している暖房設備と一体にされて建物全体の冷房を目的とした設備である。すなわち、噴霧給湿装置の噴霧口はすべて織機設置場所に向けられているのに反し、冷(暖)風の送風口は織機設置場所に限らず建物全体に冷(暖)風が行きわたるように設置されており、また、控訴人の工場において、工場の構造上外気との遮断が不完全であるばかりでなく、温湿度計が織機から離れた、床から三ないし四メートルもの高所に設置されているなど、温湿度の調節、管理は大まかなものであつて、控訴人自身本件冷房機による湿度調整によつて織物の品質管理をすることまでは考えていなかつたものといわざるをえないのであり、したがつて、本件冷房機は織物の品質管理を目的としたものではないといわなければならない。しかも、本件冷房機にはそれ自体除湿機能はないうえ、控訴人の工場には特別の除湿装置も設置されていないところ、織物の製造工程において、温度として二二ないし三〇度、湿度として五〇ないし六〇パーセントが好ましい状態であるとしても、姫路測候所における昭和四八年七月及び八月の観測記録によると、最高気温が三〇度以上の日(七月は二九日、八月は二八日)はすべて平均湿度が六〇パーセントを超えており、右のような高湿度の状態において除湿機能を有しない本件冷房機により工場内の温度を下げれば、逆に湿度が上昇することは科学的に公知の事実であるから、本件冷房機で温度を適温に下げることにより、温度の面では織物の製造工程に好影響を与えるということができるかもしれないが、温度の低下に伴つて上昇する湿度は織物の製造工程に反対に悪条件を付加することになるので(織物の製造では温度よりむしろ湿度の方が影響度が大きい。)、本件冷房機をもつて織物設備ということはできず、結局建物付属設備に該当するものと認められるのである。

3  本件更正処分の理由附記の適法性について

帳簿書類の記載を否認して更正をする場合において、更正通知書に付記すべき理由としては、更正にかかる勘定科目とその金額を示すほか、そのような更正をした根拠を右帳簿書類の記載以上に信憑力ある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するものということができるとしても、本件は、被控訴人において、本件冷房機を取得した時期及びその価額等についての控訴人の帳簿書類の記載を信用できないとして更生するものではなく、帳簿書類に記載の基本的事実はそのまま認めたうえ、その事実に対する法的評価(本件冷房機は建物付属設備か機械装置か)について納税者である控訴人と見解を異にする結果更正をする場合に該当するので、その理由付記にあたつては、事実と法的判断の結論を示せば足り、それ以上にそのような結論をとるべき根拠を示すとか、右帳簿書類の記載以上に信憑力ある資料を摘示するまでの必要はないものと解すべきである。

(当事者の立証)〈省略〉

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は理由がないと判断するが、その理由は、次に補正、付加する他は、原判決理由の説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目裏六行目の「原告主張のとおりの属性を有するもの」を「省令別表第二、番号四四の織物設備に該当し、且つ租税特別措置法第四五条の二の機械及び装置に該当する」と、八行目と末行の「争」を「争い」とそれぞれ改める。

2  同一三枚目表二行目の「争」を「争い」と改め、四行目の「結果」の次に「(原審分)」を加え、七行目の「あること」を「あり」と改める。

3  同一三枚目裏四行目の「工場内に送るように仕組まれて」を「工場建物内全体に送るように仕組まれて(ただし、減湿機能を有しない)」と改め、同七行目から九行目の「そうして」までを除く。

4  同一四枚目表一行目の「争」を「争い」と改め、二行目の「結果」の次に「(原審分)」を加え、三行目の「の証言」を「、同小牧定一の各証言」と改め、同行の「結果」の次に「(原審分)」を加え、九行目の「掲上」を「記載」と、一二行目の「前記」を「六〇」と、それぞれ改める。

5  同一四枚目裏一行目の「製糸」を「製織」と改める。

6  同一四枚目裏三行目の「法人税法上」から同一五枚目表一一行目までを「従つて、控訴人の工場において、製織工程の中で、冷房機による冷房を行えば、その冷房機は、省令別表第二、番号四四の織物設備に該当する。しかし、前記認定のとおり、本件冷房機は、建物付属設備の暖房設備を利用して工場建物内の冷房を行うものである上、」と改める。

7  同一五枚目裏六行目「認められ、」の次に「証人小牧定一の証言によれば、控訴人の工場では、温度計、湿度計を見て本件冷房機を作動させるのではなく、糸切れが生じた場合に作動させるが、なるべく作動させないようにしていることが認められる。」を加える。

8  同一六枚目表五行目から同一七枚目裏七行目までを次のとおりに改める。

「1 ところで、法人税法一三〇条二項が青色申告にかかる法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがつて、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するが(最高裁昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、同昭和五〇年(行ツ)第八四号同五四年四月一九日第一小法廷判決・民集三三巻三号三七九頁等)、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、右の更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないと解するのが相当である。

2 本件についてこれをみると、本件更正通知書記載の更正の理由には本件更正をした根拠についての資料の摘示がないことは否定できないところであるけれども、本件更正は、前記(別表(四))のような内容のものであつて、本件冷房機の存在、その取得時期及び取得価額についての帳簿記載を覆すことなくそのまま肯定したうえで、控訴人の確定申告における本件冷房機の属性に関する評価を修正するものにすぎないから、右更正をもつて帳簿書類の記載自体を否認するものではないというべきであり、したがつて、本件更正通知書記載の更正の理由が右のような更正をした根拠についての資料を摘示するものでないとしても、前記の理由附記制度の趣旨目的を充足するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないというべきである。

そして、本件更正は、控訴人が確定申告において、本件冷房機が租税特別措置法四五条の二第一項所定の「機械」にあたり、したがつて、その減価償却の計算については右の特別償却規定が適用されるとの見解の下にその減価償却費を五四万一三五五円と算定してこれを損金に計上したのに対し、右五四万一三五五円から法人税法三一条一項所定の普通償却の計算方法に基づき算定した減価償却費一七万三三一九円を差し引いた三六万八〇三六円の損金算入を否認したものであり、その理由として、本件更正理由の記載は、本件冷房機が法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物付属設備」である「冷房設備」にあたり、したがつて、これが特別償却規定の適用のある「機械」にあたるとは認められないから、本件冷房機の減価償却費は前記普通償却の限度において算定されるべきであるとする趣旨を記載したものということができ、これによれば、右更正理由の記載は、被控訴人がなにゆえ右三六万八〇三六円を償却超過額としてその損金算入を否認したかについて、その法律上及び事実上の根拠を具体的に示しているものということができる。

右更正理由の記載は、本件冷房機がなにゆえ特別償却の対象とされる「機械」にあたらないとするのかについて、これが法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物附属設備」にあたるとするにとどまり、被控訴人の判断の基礎となつた具体的事実関係を明示してはいないが、冷房機は、もともと建物内部を冷房して空気温度を調整するという機能を果たす目的で製作されるものであるから、その機能が特殊の用途に用いられているため特別償却の対象とされる「機械」にあたることを肯定しうる例外的な場合でない限り、普通償却の対象とされる法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物附属設備」としての「冷房設備」又は同条七号所定の「器具及び備品」にあたるというべきであり、右の理由の記載もこのことを前提としたうえで、本件冷房機が、その構造、機能及び設置使用状況からみて、右の「冷房設備」にあたることを認めた趣旨を記載したものと解することができる。

そうであるとすれば、右更正理由の記載は、本件更正における被控訴人の判断過程を省略することなしに記載したものということができ、被控訴人としては、前記のような内容の理由を記載することによつて、本件更正における自己の判断過程を逐一検証することができるのであるから、その判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはなく、右の程度の記載でも処分庁の恣意抑制という理由附記制度の趣旨目的を損うことはないというべきである。

また、本件更正理由の記載を右のような趣旨のものと解することが可能であるならば、本件更生の理由は、理由附記制度のもうひとつの目的である「不服申立ての便宜」という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものということができるのであつて、前記の内容を有する本件更正理由の記載は法人税法一三〇条二項の要求する更正理由の附記として欠けるところはないものというべきである。

9  同一八枚目表九行目から一〇行目にかけての「右証拠並びに証人梅沢正義の証言」を「弁論の全趣旨によつて成立が認められる甲第一二号証、証人本坊美通、同梅沢正義の各証言」と改め、同行の「管内では」の次に「、本件同様の事案については、」を加える。

二  以上によれば、控訴人の請求は理由がないから、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるので、本件控訴を棄却し、控訴費用については、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 道下徹 渡辺修明)

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